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「地球は生きている2〜雨のレイキャヴィク」
「もう、12時か…」
ロンドンのヒースロー空港で乗り換え、アイスランド航空でケプラヴィーク空港に到着する頃にはもう日付が変わろうとしていました。国際空港のわりにはとてもこじんまりしている建物を出ると、ひんやりした空気が体を覆います。僕は目の前に停車している市内行きの大きなバスに乗りこみ、出発を待ちました。
アイスランドというとまず「アイルランドじゃなくて?」という感じできかれることが多いのですが、アイルランドはイギリスの西に位置していている国で、アイスランドはそのさらに北側、北極寄りに位置します。ちなみにエンヤがアイルランド出身で、ビョークがアイスランドです。なんかわかりますね。以前からとりつかれたように北欧北欧言っていますが、通常、デンマーク、ノルウェー、スウェーデン、フィンランド、そしてこのアイスランドの5カ国が北欧です。地理的には他の4カ国と離れているものの、ノルウェーからの移民が多かったことや、色が違うだけの国旗をみると、この5カ国を北欧と呼ぶのが適当なのでしょう。
ちなみに、アイスランドは9世紀まで無人の島で、最初に定住したのは修行のためにやってきたアイルランドの修道士たちでした。その後、ノルウェーからやってきたフロキという人物が移住したのですが、あまりの寒さで根負けして島から引き上げたのです。その際にフィヨルドの浮氷を見た彼が「アイスランド」と名づけたそうです。
本格的な移住がはじまったのは870年ごろです。インゴゥルブルという人物がある岬に到着すると、そこで飾り柱を海に投じました。3年後に漂着した場所に居を構えることにしたのですが、それが現在の首都レイキャヴィクです。その後、ノルウェーから自由をもとめてやってきたヴァイキングが押し寄せると、もともといたアイルランドの修道士たちは、彼らに全ての土地を明け渡しました。ちなみにレイキャヴィクとは「煙の湾」という意味で、火山によって発生した温泉によって湾いっぱいに湯煙があがっているのを見たヴァイキングたちが名づけたそうです。「氷の国」のなかの「煙の湾」ということです。
また、自由と平等を求めてやってきたヴァイキングたちがルールを定めようと、アルシングと呼ばれる民主議会を開いたのですが、これが世界で最初の民主議会となりました。世界初の憲法、世界初の議会制民主政治ということです。もう一ついうと、アメリカ大陸の発見はコロンブスで有名ですが、実の所、それよりも
500年も前に、アイスランドのレイブル・エリクソンが発見していたのです。彼は、本来向かっていたグリーンランドに向かう途中に嵐に遭い、遭難します。そしてたどり着いたのが見知らぬ大陸で、ブドウがたくさんあることから彼は「ヴィンランド」と名づけました。その場所が現在の北米大陸だったのです。しかし、先住民との争いで入植は失敗したために、アイスランドへと引き上げることになります。そしてその500年後、新大陸発見の栄誉はコロンブスに渡ってしまうのです。
また、「アイスランド」という響きは、まるで北極や南極のような極寒の地をイメージさせますが、実はそんなことはなく、メキシコ暖流のおかげで比較的温暖で雪も多くはないのです。やはり6〜8月が観光シーズンで、イギリスをはじめとするヨーロッパはもちろん、アメリカやカナダなど、世界中の人々が夏のアイスランドを満喫しに行きます。ちなみに物価は高く、たとえばペットボトルの水がいまのレートだと400円弱といったところです。
「こんな遅くて大丈夫かな…」
しばらくして動き出したバスはひたすら真っ暗な世界を突き抜けるように走っていきました。街灯がないので窓からはなにも見えません。感動は明日にとっておくことにしました。市内のバスターミナルに到着してさらに小さなバスに乗り換えると、順番に宿泊ホテルまで送ってくれました。ようやくホテルの前で降りたときはもう深夜一時。薄暗いロビーをスーツケースをカタカタひきながら歩いていくと、スーツの男の人が迎えてくれました。
「ミスターフカワ?」
こっちが名乗る前に、そう尋ねてきました。最近は、ほとんどの予約をネットで済ませているのですが、心のどこかでまだ「大丈夫かな」という不安が残っています。だから、それがちゃんとできていたりすると、ほっとするのです。この不安をひとつずつ片付けていく感じがまたクセになるのですが。
「さぁ、ここはどうだろう…」
部屋に到着してしばらくベッドに横になると、思い出したようにケータイの電源を入れました。少し前に買い換えたケータイは、幸か不幸か、何の手続きもなくベルギーでもフィンランドでも、電波が入りました。トランジットのロンドンでも当然のようにつながったので、結果はなんとなく予想できました。
「え?」
画面には圏外と表示されていました。これまでは最初は圏外になっても、電波を探してしばらくするとアンテナが立ったのですが、いくら待っても圏外のままです。
「これはもしかして…」
そうです、さすがのドコモもアイスランドにはアンテナがありませんでした。うれしいようなさみしいような、複雑ではあるものの、7:3でうれしいほうが勝っていた気がします。つながるとどうしても見てしまうので、たまにはケータイに振り回されない生活もいいものです。
翌日は、アイスランドに来た人は必ず訪れるという、ゴールデンサークルのツアーが控えていまいた。翌日といってももう数時間後に集合だったので、僕は時差ボケなんだかよくわからないまま、すぐに就寝することにしました。
「雨か…」
翌朝、窓からは雨のレイキャヴィクが見えました。高いビルなどは当然なく、かわいらしい屋根の家屋が並んでいます。こういう、いざというときの天気は、日頃の行いが反映されるものだと思っていますが、ヨーロッパの街は、とても雨が似合うので、そんなにテンションもさがりません。窓からの眺めを写真に収めた僕は、朝食を済ませ、外国人でいっぱいのバスに乗り込むと、大きなバスはゴールデンサークルへと動き出しました。
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