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「地球は生きている4〜distance(プレートとプレートの間の)〜」

 「これがプレートか...」
 僕は、大地の裂け目が幾筋にも走ったユーラシアプレートの上に立ち、川の向こうにある北米プレートを眺めていました。
 普段からプレートを意識して生活している人はいないと思います。地震のときにだって、プレートによるものだとはあまりイメージしません。でも一度、大陸を動かすそのプレートを目の当たりにすると、少なからずそのイメージは変わります。
 そもそもプレートとは、これはあらためて調べたのですが、地球の中心部にあるマグマが地表に噴出して固まったもので、その上に大陸がのっています。大陸をファンデーションとすると、プレートが地球の地肌といったところでしょうか。地球上にはいくつものプレートが存在するのですが、それらがゆっくりと移動し、大陸が動いているわけです。だから通常、プレートを見ることはできないのですが、そのプレートが地表にあらわれている場所があるのです。
 シンクヴェトリルという場所は、なんとユーラシアプレートと北米プレートの二つのプレートが生まれ、東西に分離している、まさに地球の裂け目を体感できる場所です。この二つのプレートはいまも左右に広がっていて、毎年2センチほど、そのdistance(プレートとプレートの間の)を広げているのです。おそらく、ガイドのおばちゃんから聞こえた「distance」はこのことなのでしょう。また、前述の世界初の民主議会アルシングが開かれたのもこの地で、いまはそこに国旗が掲げられています。
 この二つのプレートが反対側の端っこで接しているポイントがあるのですが、そこがまさに日本なのです。アイスランドで生まれ、二つに分かれたユーラシアプレートと北米プレートは、日本という国で再び遭遇していたのです。ちなみに、アイスランドの面積は北海道と四国をたしたくらいで、人口は30万人。ちなみに僕の生まれ育った横浜市港北区の人口と同じです。人口は違えど、ともに島国で、火山が多く、温泉も多い。アイスランドと日本は意外な接点を持っていたのです。
 ひとつのプレートの中にも、いたるところに裂け目がみられます。ギャウと呼ばれるのですが、人間でいう皺のようなものですね。だから無数にのびる裂け目を見ると、どこか、地球が生き物のように感じられるのです。
 「虹だ...」
 雲が流れ、青空がのぞくと、はるか遠くの山に虹がかかっていました。ユーラシアプレートの上で、北米プレート上にかかる虹を眺めているわけです。
 「たしかに、地球は生きている...」
 バスに戻ると、ガイドのおばちゃんが一人一人回って宿泊先のホテルをきいています。僕は、宿泊先を伝えると、オーディオプレイヤーを装着し、さっきとは逆側バージョンの巨大PVを鑑賞することにしました。
 翌日、すっかり時差ボケのせいで真夜中に目が覚めてしまった僕は、夜明け前のレイキャヴィクを散策することにしました。というのも、ほとんど市内を観光する時間を設けていなかったのでチャンスはここしかなかったのです。また、街が動き出す前に散策すると、いつもとは違った表情が見られるのです。
 街のシンボルとなっているのがハトルグリムスキルキャ教会です。どうしてこんなに、というくらい難解な発音ですが、カタチはとてもスマートで、白いので一見スペースシャトルのようにも見えます。この教会以外高い建物がなく、だいたいどこにいてもこの教会が見えるので、地図を持たなくても本気で迷うことはなさそうです。また、開館中は中から市内を一望でき、教会の前には、コロンブスの500年前に北米大陸(プレートではありません)を発見したレイブル・エリクソンの像が建っています。
 散策しているうちに、ようやく暗闇も淡くなってきました。でもまだ車も人もなく、静けさが漂っていて、ほんのり灯りを映し出すチョルトニン湖や、朝もやに包まれた港はとても神秘的に見えました。ホテルに戻って朝食を済ませると、早々にチェックアウトをし、タクシーで国内線の空港に向かいました。
 「アイスランドってもっと寒いと思ってました」
 「そうだろうね。でもそんなに雪も降らないんだよ」
 「そうなんですか」
 英語の準備体操をするように運転手と会話をしていると、10分ほどで空港に到着しました。
 「あ、おつりはいいですから」
 スムーズに展開する英会話に気をよくした僕は、そんなことを言ってタクシーを降りました。ここからが、本当の一人旅の始まりでした。
 
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